Medraのラボ用自律ロボットアーム
Image credit: Medra

Key Points

  • Stanford AI Lab 出身の Michelle Lee 博士が NYU 助教授職を辞退して創業、シリーズ A で5,200万ドル調達
  • Roche 傘下 Genentech と連携し、 AI が実験を自律実行する「lab in a loop」を構築
  • ラボ自動化市場は2030年に90億ドル規模へ成長見込み、 AI 統合が成長を牽引

サンフランシスコ発のスタートアップ Medra は12月11日、 Human Capital 主導のシリーズ A で5,200万ドルを調達したと発表しました。既存投資家の Lux Capital、 Neo、 NFDG に加え、新規で Catalio Capital Management、 Menlo Ventures、776、 Fusion Fund らが参加しています。累計調達額は pre-seed・seed を含め6,300万ドルになりました。

iPhone でゴーカートを動かした学部生

CEO の Michelle Lee 博士の原点は、スタンフォード大学の学部時代にあります。Endpoints Newsによると、彼女は iPhone で制御するゴーカートを作り、それが「世界の見方を変えた」のだそうです。その後 Stanford AI Lab で博士号を取得し、 NVIDIA、 SpaceX、 McKinsey での勤務を経て、ニューヨーク大学のコンピュータサイエンス・電気工学でテニュアトラック(終身在職権トラック)の助教授ポジションまで決まっていました。

ところが Lee 博士はそのアカデミアの椅子を蹴って起業します。 Stanford eCorner での講演「From Conviction to Company」で、その決断の背景を語っています。 AI が物理世界で実験を動かし、その結果から学び、次の実験を自動で設計する——そんなシステムを作りたかったからです。

製薬企業は「数百万件の実験」を無駄にしている

Medra が解こうとしている問題はシンプルです。新薬の開発には10〜15年、20億ドル超がかかります。その原因のひとつが、実験データの「やりっぱなし」です。 Lee 博士はBloombergの取材でこう述べています。「製薬企業は毎年数百万件の実験を行うが、そのデータの大半は再利用されず、 AI にフィードバックもされない」。

従来のラボ自動化は「事前に決めた手順を繰り返す」ことしかできません。一方で AI は強力でも、データを得るには人が実験しなければならない。この2つが分断されたままなのが問題の本質です。

Medra が作っているのは、この分断を埋める「Physical AI Scientist」というプラットフォームです。ロボットが実験を最初から最後まで自律実行し(Physical AI)、別の AI が結果を解釈して次の実験を設計する(Scientific AI)。このループが24時間回り続けます。同社によれば、研究者が普段使う機器の最大70%を柔軟に自動化できるとのことです。

顧客である Cultivarium の CEO Henry Lee 氏の証言が印象的です。「既存のラボ自動化システムをすべてレビューしたが、どれも inflexible and brittle (柔軟性がなく脆い)だった」。

Genentech が自社インフラを開放した

もうひとつ注目したいのが、 Roche 傘下の製薬大手 Genentech との連携です。「lab in a loop」と名づけられたこの取り組みでは、 Genentech の社内システム(LIMS、機械学習基盤)と Medra の自律実行レイヤーを統合し、予測から実験、検証、改善までを自動で回します。

MobiHealthNewsによると、 Medra は2024年後半からシステム導入を開始し、 Genentech と Addition Therapeutics を含む米国内パートナーサイトで稼働しています。 Addition Therapeutics では遺伝子編集研究を支援しているとのことです。

チーム構成もユニークで、 Tesla、 SpaceX、 Neuralink、 Markforged 出身のメンバーで構成されています。アドバイザーには OpenAI 元 CRO の Bob McGrew 氏、 Arc Institute 共同創業者の Patrick Hsu 氏が名を連ねます。創薬スタートアップとしては異色の「ハードウェア+ AI」チームです。

ラボ自動化市場は MarketsandMarkets によると2030年に90億ドルに達する見通しで、年率7.2%の成長が見込まれます。 Medra は今回の資金でプラットフォーム強化と採用を加速し、2026年には大規模な自律ラボを立ち上げる計画です。テニュアトラックを蹴ってまで作りたかったものが、すでに Genentech の実験室で動いている。製薬の世界で「実験のやりっぱなし」がなくなる日は、案外近いのかもしれません。

via BusinessWire, Bloomberg, MobiHealthNews, Endpoints News