公共事業の「提案疲れ」を AI で解消——約28兆円市場の非効率に挑む Grabion【Monthly Pitch の起業家たち】
国と地方自治体の公共事業の総額は約28兆円——。この巨大市場で、民間企業は慢性的な非効率に悩まされている。公共事業を受託しようとする企業は、「案件を探し、提案書を作る」というサイクルを、膨大な労力をかけて回し続けている。…

国と地方自治体の公共事業の総額は約28兆円——。この巨大市場で、民間企業は慢性的な非効率に悩まされている。公共事業を受託しようとする企業は、「案件を探し、提案書を作る」というサイクルを、膨大な労力をかけて回し続けている。しかし、どれだけ時間をかけても、競争に勝てなければその努力はすべて無駄になる。
この構造的な課題を、AI を活用して解決しようとしているのが Grabion だ。同社が開発する「Propo Base」は、公共事業の公示の検索から提案書の作成、プロジェクトの履行管理までを一気通貫で支援する。代表取締役 CEO の木村晃久氏に話を聞いた。
検索に5時間、提案書作成に100時間——現場を疲弊させる非効率
日本の労働人口は、2030年に約644万人不足するという調査結果がある。一方で、官公庁が民間に発注する公共調達の総額は増加傾向にある。担い手が減少する中で、行政からの発注額は増えていく——このギャップによって、公共事業の質は今後さらに低下していく可能性があると木村氏は指摘する。
公共事業を受託する民間企業の業務は、大きく3つのフェーズに分かれる。まず案件を「見つける」段階では、企業の担当者が各行政機関のウェブサイトを巡回し、公示情報や仕様書を読み込んで応札するかどうかを判断する。木村氏によれば、この作業だけで週に約5時間ほどを要するという。
次に「提案書を作成する」段階。膨大な仕様書データを読解し、必要な情報をリサーチしながら、過去の提案書も参照して新たな提案書を作り上げていく。この工程には50〜100時間、場合によってはそれ以上の時間がかかるという。
そして受託後の「履行管理」。WBS(作業分解構成図)や課題管理表を使ってプロジェクトを管理し、行政担当者との定例ミーティングのたびに資料を作成。最終的には膨大な量の事業報告書をまとめなければならない。
「前職で公共事業への応札を数多く経験してきましたが、とにかく大変でした。仲間が次々と疲弊していき、辞めていくスタッフもいて、これはまずいと感じていました」(木村氏)。
公示の検索から履行管理まで、ワンストップで支援

こうした課題を解決するために開発されたのが「Propo Base」だ。公示の検索、提案書の作成、履行管理という3つの機能を備え、公共事業に携わる企業の業務を包括的に支援する。
公示検索機能では、キーワードを入力すると全国の公示情報が表示される。エリアや地域での絞り込み、お気に入り登録による案件管理も可能だ。従来は各行政機関のウェブサイトを一つひとつ巡回する必要があったが、Propo Base では一元的に検索できる。
提案書生成機能では、仕様書の PDF データをアップロードしてボタンをクリックするだけで、提案書が自動生成される。仕様書を構造化し、必要な情報をリサーチした上で、グラフなども含めた提案書が出力される仕組みだ。パワーポイント形式でのダウンロードにも対応している。
特徴的なのは、行政が公開しているデータも提案書の生成に活用する点。自治体の総合計画や事業計画、統計データに加え、議会議事録や首長の発言なども分析対象となる。
木村氏によれば、公共事業を手がける企業が抱える大きな課題の一つが、データの埋没だという。
「どの会社も課題だと感じているのはデータです。各担当者の PC に埋もれていて、会社全体のナレッジとして活用できていない。『この事業に似た実績がある人はいる?』といったコミュニケーションが都度発生してしまう状況です」(木村氏)。
Propo Base では、行政のデータに加え、今後は各社が蓄積してきた過去の提案書や実績データも活用できるようにしていく。データが蓄積されるほど提案書の精度は向上し、検索時のレコメンド機能も強化される設計だ。
5年で売上30億円、観光領域から市場を開拓
木村氏は前職の広告代理店で、公共事業への応札業務を担当していた。2025年4月に起業し、自身の社会人経験の中で最も大きなペインだと感じた公共事業の領域で事業を立ち上げることを決意。Propo Base の開発を進め、同年11月にベータ版をリリースした。
現在のチームは3名体制。木村氏と CTO の金岡慧氏は大学時代の男子寮の同級生で、前職も同じ広告代理店で公共事業を担当していた。COO の高山慶介氏は寮の後輩で、SaaS 企業でサービスの導入支援を手がけてきた。ドメイン知識と開発力を兼ね備えたチームで、公共事業の変革に挑んでいる。
マネタイズは、Propo Base を活用して受託した案件の金額の一定パーセントを受け取る成果報酬モデルと、月額制の有料課金の SaaS モデルを組み合わせる。5年で売上30億円を目指す。
「成果報酬で実績を積み上げた企業は、年間の応札数も増えていきます。そうした企業を SaaS 型の契約に転換していくビジネスモデルを構想しています」(木村氏)。
まず攻めるのは、広告宣伝や旅行といった領域だ。官公庁の観光系予算だけでも年間約3,000億円規模と見ており、すでに大手広告代理店や旅行会社との連携も始まっている。公共事業への参入機会があることを知らない企業も多く、そうした企業への営業も進めていく方針だ。さらに将来的には、行政向けのサービス開発も視野に入れる。
公共事業市場は、インバウンド観光需要の拡大や DX・AI 関連の新領域の登場により、今後も成長が見込まれる。一方で担い手不足は深刻化していく。Propo Base がこの需給ギャップを埋める新たなインフラとなれるか、注目だ。