amoibe 代表取締役 CEO の新條隼人氏

本稿は昨年11月に開催された招待制カンファレンス B Dash Camp に集まった起業家を取材したもの。5月に開催される次回「Pitch Arena」の出場者募集にあわせて前回開催時に掲載できなかった話題をお送りする。

1度目の起業では熱狂的ユーザーを獲得しながらもスケールできず、10年の試行錯誤の末に事業を譲渡。

「市場選定が全て」という痛烈な気づきを得て、2度目の挑戦ではSIerの OJT を DX する育成プラットフォームで急成長を狙うのが、AI ネイティブな SI 事業を展開する amoibe(アモイブ)代表取締役 CEO の新條隼人氏だ。

未経験者を高単価エンジニアへ育成する独自モデルで、1万人規模の次世代 SI 企業を目指す新條氏に話を聞いた。

AI 時代の SI 産業に切り込む育成プラットフォーム

https://amoibe.co.jp/

「amoibe OJT」は、仮想環境上で実務を再現した「擬似実務」と、AI と人間によるハイブリッド型の「メンターサポート」を組み合わせたエンジニア育成サービス。実際の開発プロジェクトを仮想環境上に構築し、利用者は要件定義、設計、実装、テストといった一連の開発サイクルを経験する。

この過程で、AI メンターが「仮想上司」として伴走する。

ゴール設定から技術的なフィードバック、モチベーション管理まで、通常なら社内の上長や先輩が担う役割を代行する仕組みだ。利用者の進捗管理や質問対応はリアルタイムで行われ、QCD(品質・コスト・納期)管理やハードスキルに加え、納期遅延時の連絡方法などソフトスキルまで評価とフィードバックの対象となる。

サービスの強みは3つある。1つ目は、従来の OJT と比べて圧倒的に人件費を抑えられる点だ。2つ目はAI メンターの学習効果。同じカリキュラムを繰り返し提供するため、想定される質問やつまずきポイントのデータが蓄積される。利用者が増えるほど AI の対応精度が向上し、人的サポートのコストは下がり続ける。

3つ目は、標準化された育成プロセスだ。全ての工程で評価項目を20〜30個設定し、点数化する。新條氏はこれを「人の金型」と呼ぶ。製造業が金型で同じ製品を作るように、同じプロセスで一定水準の人材を創出する。

ここで重要なのが、AI 時代に残る「ブルーカラーワーク」という市場だ。AI 実装プロジェクトには「仕様評価」と呼ばれる工程が必ず存在する。AI のパイプラインを設計して流し込んでも、精度が想定通りに出ないことがある。それぞれの処理を検証し、うまくいかなかった箇所のプロンプトを変えてチューニングする作業だ。

プロジェクトの大半の時間がこの検証作業に費やされるが、一つひとつ処理自体は高度なスキルを要求しない。ここに市場設計の妙がある。高度なスキルを必要としない工程だからこそ、未経験者でも短期間で戦力化でき、高い収益性を実現できるのだ。

「AI ネイティブなエンジニアを育成するプロダクトを提供して、その装置を持って大量に M&A したり、たくさん人を採用することで、新しい AI の SI 市場を取っていく。どちらかというと、最初のエントリーは育成だが、それを自社で SI 参入する側に活用しようとしている」(新條氏)。

ビジョンドリブンからの転換——10年の試行錯誤から見えたこと

人生経験シェアリングメディア「another life.」。新條氏が amoibe へ事業転換した後、ステークホルダー・リレーションズ企業の SACCO に運営が移管され、現在は採用広報・企業ブランディング向けのライフストーリーメディアとして継続運営されている

2012年、ネットプロテクションズに新卒入社した新條氏は、わずか1年半で退職を決断。2014年1月、同期とともに「another life.(アナザーライフ)」という人生経験シェアリングメディアを立ち上げた。

「人生経験のシェアリングと呼んでいて、いろんな方の経験をトレースすることで、読者が1歩踏み出せるのではないか。ユーザーの1人に手紙を書くようにプロダクトを作りましょうという感じで、ビジョンドリブンで始めた」(新條氏)。

このアプローチは熱狂的なユーザーを生んだ。「あなたのおかげで人生が変わりました」というメッセージが数多く届いた。一方で、マーケットを見ずに始めたことが課題となった。スクール事業、人材データベース事業とさまざまなビジネスを試したが、スタートアップ的なビジネスインパクトは生み出せなかった。

転機は2022年末。シードVCのファンド満期が訪れた。会社としては次のチャレンジをしたかった。そこで事業譲渡やM&Aではなく、買い戻すことにした。当時の出資者には「いくらでもいい」と言われたが、新條氏は筋を通したそうだ。

「ディールとして損させないという意味で、元値で買い戻した。その分、個人借金はできたが、それは自分が頑張ればいい話」(新條氏)。

共同創業メンバーが抜け、資本構成も経営体制も一新された。株式のほぼ全てを新條氏が保有し、エンジェル投資家だけが残った。

この過程で、新條氏は2つの重要な気づきを得た。1つ目は、自分自身の起業家としての気質だ。「another life.」は一人ひとりのユーザーの心に深く響いたが、社会への広がりという点では限定的だった。2つ目は、市場選定の圧倒的な重要性だ。

「良い経営者で悪い市場はうまくいかないが、良い市場で悪い経営者はうまくいく。この10年間、周りの経営者がIPOや大型のイグジットを叶える様子を見てきて、経営者として優秀な順に成功したかというと、そうではなかったと思う」(新條氏)。

「期待値」を失わなければスタートアップは死なない

10年間、新條氏はなぜ起業家であり続けられたのか。それでも諦めなかった理由を、新條氏は「期待値」という言葉で説明する。

「スタートアップの正体は期待値だと思う。創業時の状況ではなく、将来的に化けそうという期待に人もお金も集まる」(新條氏)。

逆に言えば、足元で多額の売上を立てていようと、期待値がなくなるとスタートアップは辛い。そして重要なのは、この期待値は外部からの評価だけではない。自分自身に対する期待値も含まれる。新條氏は自分への期待値を「一度も失わなかった」という。

創業者が諦めなければスタートアップは死なない。しかし、今進んでいる領域が正しいかは冷静に見極めるべきだ。期待値を高めながら、冷静に市場を見極める。この両立が、10年の試行錯誤が新條氏に教えた最大の教訓だった。

エンジニア育成プラットフォーム「amoibe OJT」は、あくまで入口だ。新條氏が描く本丸は、自社での SI 参入と M&A による急速な規模拡大にある。

「AI ネイティブなエンジニアを育成するプロダクトを提供して、その装置を持って大量に M&A したり、たくさん人を採用することで、 AI 時代の SI 市場を取っていく。最初のエントリーは育成支援だが、それを自社で SI 参入する方向に活用していく」(新條氏)。