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GENDA や BuySell Technologies を上場に導き、傘下の Dual Bridge Capital でスタートアップ投資も手掛けるミダスキャピタルと芸能プロダクションのアソビシステムは3日、「推し活」領域での AX(AI トランスフォーメーション)推進を標榜する新会社、アソビダスを設立したと発表した。

代表取締役には、アソビシステム創業パートナーで取締役を務める田村光紀氏が就任。同社には前述の2社に加え、GENDA が出資した。2030年に売上高300億円、最短での IPO 実現を目標に掲げる。

本記事では記者発表会で語られた内容と、田村氏の単独インタビューをお届けする。

「ファンの熱量が正しく還元されていない」

アイドルやアーティスト、スポーツ選手、キャラクターなど、対象があらゆる分野へと広がり、身近になった「推し活」。発表会の冒頭、田村氏はその市場の可能性を強調した。民間の調査会社の推計では、国内だけでもおよそ3兆5,000億円の市場規模、推し活人口は1,000万人超に達し、さらに成長が見込まれるという。

その一方で、日本のエンタメ業界が抱える構造的な課題を指摘。チケットやグッズの購入、ファンクラブの加入など、ファン向けの各種サービスはそれぞれ別の ID で管理され、データが連携されていない。そのため、グッズをたくさん買っていてもチケット購入の抽選では優遇されないなど、ファンの熱量が正しく評価・還元されていないのが現状だと説明する。

またチケットの転売や当選後の未払いキャンセルも、業界全体で根深い課題となっている。運営側では、煩雑なアナログ作業によるスタッフのオーバーワークや業務の属人化も深刻だ。

アソビダスはこれらの課題に対し、ID 連携基盤と AI を活用したプラットフォームを提供する。購入履歴やイベント参加状況などの行動データを AI で解析し、転売目的や未払い履歴のあるアカウントを排除。本当に応援しているファンへ優先的にチケットが届く仕組みを構築する。

今後は EC や動画配信など、推し活を支える一連のサービスを揃えるほか、サービス間の連携による新たな体験設計も進める。チケットの抽選に外れたファンへ別サービスの限定特典を付与するなど、ファンの熱狂を逃さないパーソナライズされた体験を提供する考えだ。

KAWAII LAB. と伊勢ヶ濱部屋がプラットフォームを活用

アソビダスは先行して、アソビシステムが自社アーティスト向けに開発・運用してきたオンラインくじ・オンライン特典会などのプラットフォーム事業を承継し、サービスを展開している。

1日に開催されたアソビシステムが手がけるアイドルプロジェクト「KAWAII LAB.」の FRUITS ZIPPER による東京ドーム公演では、同プラットフォームを活用したオンラインくじを実施。グッズや特別なデジタル特典がその場で当たり、会場に詰めかけたファンからは好評を得た。記者発表会には、同じく KAWAII LAB. に所属する CANDY TUNE が登場した。

「日本の“カワイイ文化”を世界に届けることが、私たちの目標。言葉や距離を超えて、世界中の皆さんと推し活を楽しめる環境をつくり、ワールドツアーに挑戦できるアイドルになりたい」(CANDY TUNE・村川緋杏氏)。

大相撲では、伊勢ヶ濱部屋の後援会運営のサポートを開始した。1月31日に行われた10代伊勢ヶ濱親方(第73代横綱・照ノ富士)の引退相撲では、「伊勢ヶ濱友の会」としてオンライン福引サービスを提供。デジタルを活用した新しい施策を実現している。発表会では伊勢ヶ濱親方が登壇し、さらなるプラットフォーム活用に意欲を見せた。

「相撲は長い伝統文化を何より大切にしているが、デジタルや AI といった新しいテクノロジーを活用してより多くのファンと深く関わり、世界中に相撲を知ってもらうきっかけを広めていきたい」(伊勢ヶ濱親方)。

2030年売上300億円、5年で世界1,000万人のインフラへ

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田村氏はアソビダスの成長戦略について、アイドルや伝統文化に加え、スポーツ、VTuber、2.5次元、地方創生などの領域への事業拡大を掲げた。オーガニックな成長で初年度の売上高40〜50億円を見込みつつ、積極的な M&A により非連続な成長を加速。2030年の売上高300億円、IPO を見据える。

「5年で世界1,000万人が集うグローバルインフラをつくる。日本発の推し活文化を世界標準へアップデートすることが、アソビダスの目標であり挑戦です」(田村氏)。

発表会のあと、田村氏に今後の戦略について話を聞いた。

2030年の売上高300億円達成に向けた成長手段について、田村氏は自社でのサービス開発と M&A の二軸で進める方針を示した。M&A の対象として AI 領域のスタートアップなども視野に入るのか。詳細は明かされなかったものの、「M&A に関してはかなり活発に案件を動かしている」と田村氏は述べた。

M&A 推進のカギとなっているのが、ミダスキャピタルの存在だ。アソビシステムはタレントマネジメントやイベント制作を主軸とするエンターテインメント企業であり、そこへミダスキャピタルが持つテクノロジーの知見とファイナンス能力を掛け合わせることで、アソビダスの成長を支える。

アソビダスが開発・提供するプラットフォームは、他の芸能事務所やアーティストにも開放され、推し活のインフラとしての汎用性を高めていく考えだ。

その一方で世界に目を向けると、BTS などが所属する韓国の大手芸能事務所、HYBE が傘下企業を通じてファンコミュニティプラットフォーム「Weverse」を運営している。同サービスは MAU が1,200万人、アプリの累計ダウンロード数が1.5億回を超えており、日本のアーティストも数多く利用している。KAWAII LAB. のアイドルグループも2025年、Weverse の利用を開始した。

今回発表されたプラットフォーム構想とは、競合関係にあるようにも見える。この点について田村氏は、共存の姿勢を示した。

「それぞれ、持ち味がまったく異なると考えています。我々と Weverse は別々の方向を見据えながら、業界を一緒に活性化していけたら」(田村氏)。

「日本のエンタメの価値を向上させたい」

最後に、アソビダス設立の根底にある思いを聞いた。目指すのは国内の推し活市場にとどまらず、日本発アーティストのグローバル展開を下支えすることだ。

「グラミー賞を見ても、日本人のアーティストがパフォーマンスする姿はない。その現状に、悔しさはあります。しかし、この小さな島国にはまだまだ無限のポテンシャルがある。世界へ羽ばたくアーティストを応援できるようにプラットフォームを成長させ、日本のエンタメの価値を少しでも向上していきたい」(田村氏)。