中馬和彦氏が語る「産業を作ることが新規事業」——ベールを脱いだ新・みずほBlue Lab、その全体像
昨年12月、みずほ銀行は事業開発戦略の新たな動きを公表した。2017年にみずほと WiL の共同プロジェクトとして始まった Blue Lab を100%子会社化し、探索投資ファンド「Blue Lab Fund」を100億…

昨年12月、みずほ銀行は事業開発戦略の新たな動きを公表した。2017年にみずほと WiL の共同プロジェクトとして始まった Blue Lab を100%子会社化し、探索投資ファンド「Blue Lab Fund」を100億円規模で新設。ゼロイチの事業開発から、スタートアップとの連携によるオープンイノベーション型の産業創造へと舵を切った。
代表取締役に就任した中馬和彦氏は、KDDI 時代にオープンイノベーションの旗手として知られた人物だ。
1月27日、名古屋で開催された TechGALA Japan 2026 に登壇した中馬氏に、これまで語られてこなかった全体像について話を聞いた。中馬氏の手記「強い日本の産業をつくろう、もう一度」と併せてお読みいただきたい。(太字の質問は全て筆者)
ーーBlue Lab は元々、みずほと WiL が2017年に開始したプロジェクトですよね
中馬:私も前職時代に実はみずほのアドバイザーなどもやっていて、こうしたらいいのではないかといろいろアドバイスもしていました。Blue Lab はその歴史の中でゼロイチでいろいろな取り組みを実施し、ノウハウもできた。
ただ、もっと大きなスケールのことをやろうと思ったら、やはりゼロイチではなく1→10とか10→100からやらなければならない。むしろアップデートしようと。そこでファンドに衣替えして、あえて Blue Lab をそのまま使ったのです。
ーー具体的な取り組みは
中馬:タグラインとしては「強い日本の産業をつくろう、もう一度。」ということです。私はチーフ・ビジネス・デベロップメント・オフィサーで、みずほの新規事業の責任者です。結果としてファンドも作って投資もするのですが、私のメインタスクはあくまで新規事業なのです。
では、みずほの新規事業は何かと言えば、一般にイメージされるような事業開発はしません。産業を作ります、というのが今回私がやることです。「for みずほ」ではなく「for 日本」「for 世界」のための新しい産業を作る。それを今回の新規事業開発としてやろうということです。
これは結構前からよく使っているスライドなのですが、「失われた30年」という言葉があるじゃないですか。これを設立年数20年以内の会社でハイライトすると、アメリカ企業の過半数が実はここ20年以内に出てきたスタートアップなのです。
ーー確かに
中馬:日本を見たらトップの顔ぶれは全然変わっていない。結局生まれなかった30年だと。失われてはいない。他の国ではインターネット革命で GAFA のような企業が次々と出てきたにもかかわらず、日本からは新しいインダストリーのスターが出なかった。それが本質的な課題だと思っています。
ここから先、新しいスターを生みたい。簡単に言うと、産業界の大谷翔平さんのような存在は出ていない。そこを目標にこれからやろうというのが我々の事業開発です。

中馬氏が語る「産業を作る」という言葉は、もしかしたらそう軽々しく文字にしない方がいいのかもしれない。
普段の取材で数多くの起業家と触れる中、この言葉の「重み」が相対的に軽くなっている印象があるが、少なくとも(冗談に聞こえるかもしれないが)私は産業を作ったことも(当然だ)、作ろうと思ったこともなかった。
よく投資家や起業家は「デカい山を目指せ」という。
今、まさに国政では選挙を前に、社会のあり方、そして「日本の稼ぎ方」を声高に問う局面にきている。次のトヨタ、次のソニーが生まれなければ、未来が崩れる。
そういう意味で「産業をつくる」という重たいメッセージを事業インフラの立場から伝えることは意味がある。メガバンクが持つ産業横断的なネットワークと信用力を、新しい事業創出の「触媒」として使うという発想は、これまでに培ったオープンイノベーションの経験があってこそ到達した視座だろう。
では具体的に、みずほはどのような手法でそれを実現しようとしているのか。
ーー具体的にはどのようなアプローチを取るのですか
中馬:一般的には自社の戦略にアラインしたことをやるのですが、我々はマーケットアプローチです。前職時代に探索投資として、ファンド投資をしていました。スタートアップへの投資を通じて、今世の中で何が起きているかを業界の内側から把握する。
経営会議に出て、その会社を中から見る。ロボットの業界、製薬・創薬の業界と、すべてのものに対して色をつけずに投資をしてみて、この業界はもっと面白いとか、こういうところと一緒になったらもっと伸びるということを理解していく。
ーーなるほど
中馬:そこに「×みずほ」や「×国」といったパラメーターを入れながら、どの領域を事業にしていくかを決める。これがマーケットアプローチの考え方です。ですから、自分たちだけで決める注力領域もない。
新しく立ち上げた Blue Lab Fund を通じて、とにかく世界を広く見るところから始めます。一般的な企業の狙いは本業とのシナジーですが、我々はマーケットインパクト。日本の産業貢献ということは、古くは日本興業銀行や渋沢栄一氏が手がけてきた歴史を見ても明らかです。そこをちゃんとやらなければならない。
ーー前職時代、中馬さんと言えば「オープンイノベーション」でした。やり方に違いがあるとしたらどのような点ですか
中馬:私は前職時代に様々な事業を手がけましたが、最も異なるのはオーナーシップを取れるかどうか、という点です。いろいろとスタートアップに出資して、M&A して、最後にローソンのようなセンターピンを打ち込むことで、一つのドメインが完成する。そういうことをずっとやってきたのですが、みずほで完全に同じやり方を取ることはできない。

通信キャリアと銀行——どちらも巨大なインフラ企業でありながら、事業開発における自由度は実はまったく異なるらしい。
特に意識しなければならないのが銀行には銀行法をはじめとする業法の壁だ。
出資比率の制限、業務範囲の制約——こうした規制は一見すると足枷に映るが、中馬氏はそこに別の可能性を見出しているようだった。制約があるからこそ生まれる、銀行ならではの事業開発の形とは何か。
ーー業法の制限で
中馬:近年緩和が進んでいるとはいえ、銀行には業務範囲や出資比率の制限があります。今ファンドを作っていますから、いろいろなところに対してファンドからその制限の範囲内で出資していく必要があり、事業会社のマジョリティを取ってオーナーシップを握るということにはハードルがあります。
ーーではどうするのですか
中馬:特定一社ではなく、複数の大企業などのパートナーと一緒になって特定の産業を作る。これはまさしくオープンイノベーションです。スタートアップと特定の一社ではなく、みずほが A 社と B 社と C 社と一緒になって新しい産業を作りに行く。もしくは既存の産業で目詰まりしているところをアップデートしていく。
それが金融が本来やるべき殖産興業、産業創造なのではないかと思っています。ですから for みずほの新機軸はやめて、資本やネットワークなどのアセットをフルで活用しながら産業を作る、その結節点になろうという形です。
ーー新たな枠組みにトヨタが来るかもしれない、ソニーが来るかもしれない、そこにスタートアップも来るかもしれない。そういうパズルのようなものをこれから作っていくわけですよね。かなり壮大ですが、どこから手をつけるのですか
中馬:私は今起きているマーケットの地殻変動にインスパイアされてやっていきたい、オポチュニスティックにいきたいと思っています。
つまり、市場創造の潮流になりそうなものにきっちり早いタイミングで乗っかっていく。そしてそれを強化し、アクセレートしていく。それが私の考える事業開発のやり方です。みずほがどうとかではなく、社会的使命とか技術的なキャズムを超えるとか、そういうタイミングで乗っかっていく。それを見定めています。

実はこのタイミングで中馬氏はテーマについていくつかの領域を挙げてくれていた。
しかし、より重要なキーワードは「経済安全保障」にある。連日報道されているレアアースの問題がわかりやすい。強い産業を自前で、かつサステイナブルに創り出すためには、強いリーダーシップと緻密なサプライチェーンの戦略が必要になる。
もとより、ひとつの産業をどこかの一社が作り出すことはできない。国や企業、強い意思を持った起業家、アイデア溢れるエンジニア、大きな資本を投入できる基盤。一筋縄ではいかないこれらの猛者たちをまとめ上げるには、強いビジョンと「仕組み」が必要となる。
どの領域に、どのようにして産業構造を作ろうとしているのか。インタビューの終わり、中馬氏に少しだけヒントをもらった。
ーーホットトピックスを上げると、やはりフィジカル AI などが出てくると思いますが、今ここだというところはありますか
中馬:まだ詳細はお伝えできないのですが、我々は産業を作るのが新規事業だというところから入っています。自分たちが主役ではない。そうなった時にどこをやるべきか。
一つは日本の将来の輸出産業を作ることです。やはり外貨を稼がなければなりませんから。どこかと言えば、IP エンターテインメントでしょう。車の次は今エンタメ分野が輸出産業として第2位になってきました。アニメなども絶好調です。我々もそこを中心にやっていきたい。外に向かっての成長戦略として IP エンターテインメントです。
もう一つお伝えできるのは、食の安全保障。戦時下に、食料を押さえられたら国としてはもう終わりです。自給率をきっちり上げていきたい。これらに関連する分野の産業をアップデートすることに注力しています。
ーー経済安全保障の話は絶対出るだろうなと思っていました
中馬:少なくとも防衛に関しては100%国産でなければなりません。パソコンの生産の多くがアジアに行ってしまったものを、もう一回こちらに戻してこなければならない。これは一企業にできますかという話です。
ーー部品まではカバーできない
中馬:担い手が国内に見当たらない部材などは、スタートアップというよりも、たとえば自動車産業のティア2、ティア3のような部品メーカーに作ってもらえるのではないか。そういうところでバリューチェーンを再結成して、もう一度「産業村」を作る。地方創生的なところも含めて、国がとにかく牽引しなければなりません。
ーー例えば産業村の再建をやりましょうという時に、スタートアップや市場を巻き込むのはイメージがつくのですが、大企業がどういう立ち位置で入ってくるかというのはどういうイメージを持っていますか
中馬:これはいずれ発表できると思いますが、今まさにアライアンスを立ち上げようとしています。みずほを核にして、商社、デベロッパー、各種製造メーカーに入ってもらう。その領域をやりたいスタートアップに対してノウハウ提供や資金提供をするコンソーシアムです。
ーーそれはありがたいですね、スタートアップにとっては
中馬:スタートアップでこの領域をやりたい人には積極的に情報提供しますし、特有のノウハウがあるのです。そういうところを内側から提供しながら人を集めていく。単純に技術を持ってくればいいだけではないのです。
ーー引き続き取材します。ありがとうございました。