Image Credit: Findy/事業戦略発表会に登壇したファインディ代表取締役の山田裕一朗氏

エンジニア向け転職サービスや経営と開発現場をつなぐAI戦略支援SaaS「Findy Team+(チームプラス)」を展開するファインディが、創業10年目にして大きな転換点を迎えている。生成 AI の急速な普及により「エンジニアの仕事がなくなる」という懸念が広がる中、同社は自ら AI を徹底活用した結果、通説とは異なる実態を発見した。21日に開催された事業戦略発表会で、代表取締役の山田裕一朗氏と執行役員の西澤恭介氏が語った内容をレポートする。

ファインディは2016年に事業を開始し、IT エンジニアの転職サービス「Findy」、フリーランス紹介サービス「Findy Freelance」、開発生産性可視化 SaaS「Findy Team+」などを展開してきた。累計会員登録数は26.7万人、登録企業数は4000社を超える。

同社にとって2025年は大きな転換期だった。山田氏は「過去9年間とほぼ同じぐらいの変化が、2025年の3月から半年ぐらいで起きた」と振り返る。きっかけの一つが、Salesforce の CEO が「今年はエンジニアを採用しない」と発言したことだった。

「投資家からも『エンジニアの需要がなくなるなら、ファインディはもういらないんじゃないの?』と言われました。どうしようかと模索して、海外の AI プレーヤーや企業にも会って議論を重ねました。結論としては、これは大きなチャンスになりうると考えています」(山田氏)。

その根拠として山田氏が挙げるのが、AI 駆動開発の普及と大企業の開発内製化という2つのトレンドだ。AI の活用が「開発組織のイシュー」から「CEO のイシュー」へと変わり、自社でデータ基盤や AI 基盤を構築しようとする動きが加速しているという。

同社は自ら AI を使い倒すことで、その実態を把握しようとした。社内で最も AI コーディングツール「Devin」を活用するエンジニアは、自分が書くコードの9割以上を AI に任せているという。では、組織全体の生産性は上がったのか。

Image Credit: Findy/事業戦略発表会の説明資料。若手はAIに振り回されるようだ

「残念ながら、組織としては生産性が上がっていません」と山田氏は率直に語る。社内データを分析した結果、シニア層は3割から5割程度の生産性向上が見られた一方、若手層は2割から3割ほど生産性が低下していた。

「シニア層は AI にミーティング前に依頼しておいて、戻ってきてレビューするといった使い方ができます。一方、若手は AI に投げかける問いが十分に整備されていないので、逆に手戻りが増えている。AI を使うことで生産性が下がっている人も出てきています」(山田氏)。

この発見を受け、同社は若手エンジニアに対して基本情報技術者試験の取得を推奨し始めた。3年前であれば「今さらそんなの取るの?」と言われていた資格だが、コンピューターサイエンスの基礎知識を持つことの重要性が増しているためだ。山田氏は「研ぎ澄ませていけば1.5倍から2倍の生産性にはなるが、10倍になるかというと現実では難しい」と述べた。

一方で、日本のエンジニアによる AI 活用は想像以上に進んでいることも分かってきた。同社の調査によると、GitHub Copilot のある週の利用率は米国に次いで日本が2位。Anthropic の利用量でも日本は米国、インド、ブラジルに次ぐ4位に位置する。

興味深いのは、その多くが個人の自腹で賄われている点だ。同社のユーザーのうち52%が AI ツールを自費で利用しており、平均支出額は月額9300円に達する。この金額は1年前の約3倍だ。

「会社が導入しないから、自分で払っているケースが多いんです。筋のいいエンジニアは、会社のペースでやっていると自分が置いていかれると分かっている」(山田氏)。

企業が AI 導入に慎重な理由について、山田氏は ROI を最重要視する日本企業の姿勢を挙げた。ある GAFA 出身者から聞いた話として、日本の金融機関が米国の金融機関に「AI の ROI をどう計算しているのか」と質問したところ、「ROI なんか今計算して意味があるのか。使いこなせている人の割合の方が大事だ」と返されたエピソードを紹介した。

Image Credit: Findy/事業戦略発表会資料から。2023年2月のChatGPT登場で世界は一変した

こうした環境変化を踏まえ、ファインディは事業戦略を大きく転換する。従来の SaaS 提供に加え、コンサルティングやハンズオン型支援を強化。「AI Accelerate by Findy Team+」として、大企業の開発内製化と AI 駆動開発への移行を一気通貫で支援する体制を整えた。

執行役員の西澤氏は「日本企業では、経営サイドがデータに基づいて意思決定したくても、使えるデータになっていないケースが多い。開発のことが分かって経営者になった方の比率も少なく、共通言語がない」と課題を指摘する。

「戦略コンサルのような大手よりも深いレベルで、ハンズオンで入っていけることが差別化のポイントです。ツールがあるので課題を定量的に示し、変化がどうだったかを説明できる。それが我々がコンサルをやる意義だと考えています」(西澤氏)。

新規事業として、プロダクト企画段階の意思決定を支援する「Findy Insights」、AI ツールの活用状況と ROI を可視化する「Findy AI+」、アーキテクチャ設計を AI が壁打ちする機能、そしてエンジニアを始めとしたAI人材の AI 活用度を偏差値化する「Findy AI Career」を発表した。AI Career については2月に大きなアップデートを予定しており、AI を使いこなせる人は年収が上がり、そうでない人は下がるという評価を組み込む計画だ。

同社は2028年までに登録企業数1万社、年率150%の成長維持を目標に掲げる。海外展開も加速しており、2024年以降、インドのバンガロールとニューデリーに拠点を開設。韓国でも法人を設立し、メガベンチャー候補への導入が始まっている。

山田氏は「AI はエンジニアの仕事を奪う存在ではなく、役割を進化させる存在だ」と強調する。コーディング中心だった開発が AI の登場で大きく変わろうとする中、エンジニアリングそのものの再定義が必要になっているという認識だ。

「日本の IT 業界からグローバルで戦える企業があまり出ていないのは事実です。でもインド発のユニコーンが米国で2割を占めたり、韓国企業が米国市場に入り込んでいる例もある。IT 業界だから難しいのではなく、日本発の IT 企業がグローバルでうまくいっていないだけ。そこにチャレンジしていきたい」(山田氏)。

AI の進化により、少人数でプロダクトをローンチしやすくなった反面、競争も激化している。エンジニアの価値がどう変わるのか、企業はどう対応すべきか。ファインディ自身の実験結果は、AI 時代の働き方を考える上で示唆に富んでいる。

訂正:ファインディの創業時期、海外拠点の開設時期、西澤恭介氏の役職、Findy Team+およびFindy AI Careerの製品説明について記事初出時に誤りがありました。修正させていただきます。