キャナルベンチャーズ、50億円の新ファンド組成——直接投資× VC への LP 出資でエコシステムをつなぐ
キャナルベンチャーズは30日、同社にとって3つ目のファンドとなる BCF1 投資事業有限責任組合を総額50億円で組成したと発表した。LP 出資は親会社である大手 SIer、BIPROGY が単独で担う。 2017年の設立…

キャナルベンチャーズは30日、同社にとって3つ目のファンドとなる BCF1 投資事業有限責任組合を総額50億円で組成したと発表した。LP 出資は親会社である大手 SIer、BIPROGY が単独で担う。
2017年の設立当初から、シード・アーリー期のスタートアップへの直接投資と VC ファンドへの LP 出資を同じファンドから行うという、独自のスタイルをとってきたキャナルベンチャーズ。代表取締役 CEO の松岡亮介氏とマネージングディレクターの浜田大輔氏に、同社のこれまでの歩み、新ファンド組成の背景と投資方針について話を聞いた。
直接投資× VC への LP 出資、エコシステムと「面」で連携
BIPROGY グループの CVC として設立された、キャナルベンチャーズ。これまでに1号・2号ファンドを通じ、51社のスタートアップ、20の VC ファンドへ出資してきた。出張管理クラウド「AI Travel」を手がけるトランスファーデータやブライダル・バンケット領域のバーティカル SaaS を展開する TAIAN などに投資してきたほか、ジェネシア・ベンチャーズや Gazelle Capital が運用するファンド等へ出資している。
一般的な CVC は親会社の技術やサービス強化を目的に、プロダクトが確立したミドル・レイター期のスタートアップに投資することが多い。一方で同社は対象領域を絞らず、シード・アーリー期のスタートアップに投資しながら、それらを支援する VC にも LP 出資する。そこから協調投資につながる例も現れるなど、エコシステム全体と「面」でつながることで、多角的な連携を生み出してきた。
この方針の背景にあるのが、親会社 BIPROGY の事業特性だ。SIer のなかには、自社ハードウェアを軸にサービスを提供する企業もある。その一方で BIPROGY は、特定のメーカーに依存せず、顧客の課題に応じてベンダーの製品を組み合わせて最適なシステムを構築しながら、業界を問わずさまざまな企業の IT 化を支援してきた。松岡氏は「昔から外部と組んで価値をつくる、オープンイノベーション志向な会社だった」と説明する。
こうした方針のもとで生まれたシナジーの一例が、BIPROGY が運営する働く女性向けコミュニティ「marbleMe」と、投資先で妊活コンシェルジュサービス「famione」を展開するファミワンとの協働だ。marbleMe のユーザーが抱える悩みの一つに妊活があり、そこにファミワンがサービスを提供。「単純にミッシングピースを埋めるのではなく、同じ社会課題に向けて一緒に取り組むという思考から生まれた事例」だと松岡氏は話す。
VC・CVC・事業会社をつなぐ「THE CHAIN」
キャナルベンチャーズが特に力を入れているのが、VC や CVC、事業会社による相互連携が生まれる土壌を育むことだ。
スタートアップへの投資においては、事業面での協業や、セカンダリー取引・M&A といった出口戦略への視点も重要になる。その実現には、CVC や事業会社との接点も欠かせない。しかし資金の出し手は、スタートアップ向けイベントで顔を合わせる機会はあっても、当事者だけが集まるような場は意外にない。そこでキャナルベンチャーズが立ち上げたのが、VC・CVC・事業会社が一堂に会するカンファレンス「THE CHAIN」だ。
ここでは、有力 VC が CVC・事業会社に向けて投資戦略やスタートアップ支援の取り組みについてピッチ。CVC と事業会社にとっては VC の知見を学びながらオープンイノベーションの可能性を探り、VC にとっては投資先スタートアップの協業パートナーなどを見つける機会となる。2025年3月の第1回から、公開・非公開合わせて開催されてきた。
「VC と CVC、事業会社の間で情報が行き来するようになった。この場で出会ったプレイヤー同士が協調投資や協業に至るケースも生まれ、我々にも案件の相談が来るようになっています」(松岡氏)。
VC と CVC、事業会社のつながりが広がることで、将来的には日本のセカンダリーや M&A マーケットの活性化にもつながると松岡氏は見ている。
横浜から全国へ、スタートアップや投資家を地域に呼び込む
地域連携への注力も、キャナルベンチャーズの特徴的な取り組みの一つだ。浜田氏は、課題をこう指摘する。
「地域では、そもそもスタートアップと中小企業の区別が曖昧だったり、急成長するスタートアップやトップ VC に接する機会がほとんどないということも多い。そのため、スタートアップのグロースするイメージが湧きにくいと考えています」(浜田氏)。
そこで同社が取り組むのは、外から力のあるスタートアップや投資家を呼び込み、地域と一緒に経済圏をつくるというアプローチ。現在は横浜市と連携して、有力 VC も参加するスタートアップのピッチイベントを年1回のペースで手がけている。
東京に最も近い政令指定都市である横浜で実績を生み出すことができれば、大阪や福岡など他の地域にも展開しやすい。2027年の国際園芸博覧会開催も見据えながら横浜での取り組みを進展させ、それをモデルケースに全国への展開を視野に入れる。
直接投資を拡大、BIPROGY との連携体制も強化
キャナルベンチャーズが今回立ち上げた新ファンドでは、LP 出資を組み合わせる方針は維持しつつも、直接投資の比率を拡大する。投資対象はシードとアーリーを中心とするスタートアップで、必要に応じて成長フェーズに合わせて継続的に関与する方針だ。対象領域は引き続き絞り込まず、幅広く投資を検討していくとしている。
直接投資を拡大する背景について、松岡氏は「BIPROGY グループ全体で、スタートアップと一緒に取り組みを進められる企業文化の醸成が進んできた」と説明する。
投資実行にあたっての連携体制も強化した。投資検討段階から投資実行後まで、キャナルベンチャーズのメンバーと BIPROGY の事業責任者や役員を含めた定例ミーティングの枠組みを新設するなど、組織的にスタートアップとの協働を進める体制を整えたという。
政府のスタートアップ育成5か年計画や成長戦略分野への積極財政も追い風だ。設立から8年間で培ったネットワークと BIPROGY の事業基盤を生かし、スタートアップの成長をどう後押しするか。今後の展開が注目される。